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2006年11月12日 (日)

自分が入りたい施設とは

施設での実習は学生たちを大きく成長させます。

1年生は初めての実習に行っています。見るもの聞くもの何もかもが初めてのものばかり。緊張の中、楽しむことよりも大変さを実感し、何が何だか分からないまま、疲ればかりが溜まり、1週目が終わります。

教員はそんな学生たちの指導のために施設を巡回訪問します。介護福祉士の場合は週に2回の巡回が義務付けられています。1年生の1週目、訪問すると学生たちは決まって「疲れた~!!」「先生!実習はキツイよ~」と言います。中には涙を見せる学生も・・・。

そんな中、今年から新しく実習先となった施設を訪問。ここには、最も心配している学生が実習に行っています。とても繊細な心を持っていて、大人しい学生です。ちゃんと実習できているか不安でした。でも、それは杞憂だったのです。

「先生~。とても楽しい!」「ここ、いい施設ですよ!」

二人とも、学校でも見せないような笑顔で答えます。つい、他の施設の学生の様子と比べてしまい、私も目を丸くしてしまいました。

他の施設に比べても内容の濃い実習内容なので、この学生たちには厳しいはずなのに・・・。なぜ、こんなに楽しそうなのか?

答えは施設の「ケアの質」にあります。この施設は県内でもかなり古い施設で、1977年に開設されました。開設以来、利用者のことを第一に考えた実践を行っているのです。

その中心は、この施設を創り、今年まで施設長をしていたKさんの存在なくしては語れません。Kさんは大正生まれの女性で、今年80歳になる方です。1960年代から家庭奉仕員(ホームヘルパー)として活動していたKさんは、苦労の末にこの施設を立ち上げ、以来ずっと第一線に立っておられました。Kさんの傘寿を記念して出版された本には次のように書かれていました。

「在宅介護支援を続けてみて、これではいけない、施設を作ろうと思うに至りました。寝たきりになったご老人が、飲めば出る、食べれば出ると家族に遠慮して、飢えも渇きも我慢して、ひとりじっとお迎えを待つ姿は人間同士として見るに忍びないものです。せめてウンチもオシッコも気兼ねしないで出来るように、安心して人生の最終期を過ごさせてあげたい、それには施設を作るしかないと、無力な私が決心したのです。産む苦しみは出産だけでなありません。苦労の数々はご想像に任せます。計画の中途で、よき理解者であった主人は癌で先立ちました。」

古い施設を訪れると開設当時のままのケアを展開している施設を見かけます。しかし、この施設では、利用者の満足度を高めるために、絶え間ない「処遇改善」活動を職員間で展開していきます。常に利用者の視点から自分たちのケアを見つめなおす活動です。その結果、職員心得や禁句集も生まれます。また、デイサービスやショートステイがない時代に「老人通所ヘルプ」事業をスタートさせたりと常に先駆的な展開をしています。

この本の最後には次のような文章があります。

「園長、年とって病気になったらこのホームに入るんだね」これが今から18年前、当時事務長だった息子に言われた言葉であった。お年寄りの処遇について論じ合っていた時である。私は反射的に「え~っなぜ?本気なの?」と反応してしまい「そうだよ、園長はこのホームに入りたくないの?」とすぐに言葉を返された。私は返事に困った。その様子を悟った息子に「自分が入りたくない施設を運営しているの?園長はこの施設を造るとき、何て言ったか覚えているだろう?私が造る施設は、職員のものでも自分のものでもない。お年寄りのためのお年寄りの施設を造るんだと、あんな情熱を持っていただろう?まさか忘れてはいないだろうね」とたたみかけてきた。

私は「冗談じゃないわよ。処遇については自信を持ってやってるつもりよ。生意気言わないで」と半ば喧嘩腰に言い返した。すると息子は、ふっと一息ついてからこう言った「それはわかっている。しかし自分が入りたくないということは、まだまだ良い施設ではないということだと、俺は言いたいんだ」こんな親子の会話が続いた。そして最後に息子は「ライセンスが泣いているよ」と言って立ち去った。

私は、息子の前で突っ張ってはみたが、大きく反省した。それは、ものを見る角度の違いを教えられたからである。自分の側から見たときは自信が持てた施設が、ちょっと角度を変えて見たらまだまだ不十分な面ばかりが露呈したということである。

今でも自分も入りたいと心から思える、そしてお年寄りに選んでもらえるお年寄りのための処遇に務めていることは当然である。(以下略)

長い引用になりました。40年に渡るKさんの活動と想いが施設の雰囲気をかもし出しています。だからなのでしょうね。厳しい実習内容でも「楽しい!」と学生が発言したのは・・・。

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コメント

こんにちは^^
いつもやさしいコメントありがとうございます!

施設を経営するって、本当にすごく大変なことですよね。
だけど忘れてならないのは、自分が入りたい施設であるかどうか。
これは経営者も職員も、同じように言えることだと思いますが、自分がほしいケアを提供していきたいものです。

投稿: しま | 2006年11月15日 (水) 10時41分

しまさん
「経営」の視点からだけ施設を考えたら「数」だけを見てしまいますよね。やはり、生活されている利用者の方の「心」の視点が大切でしょうね。
介護保険制度になって、援助者(事業者)と利用者が「対等」な関係が強調されていますが、目指すべき「対等」な関係って、利用者にとっても援助者にとっても「受けたいケア」がイコールになることのような気がします。
しまさんならできますよ!

投稿: マンデリン | 2006年11月16日 (木) 00時07分

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